2020年度 卒論要旨

シロイヌナズナのdrol1変異株の表現型におけるNRPA2の役割の解析

石川 雄大

シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシン遺伝子の発芽後の発現抑制が起きない変異株であり、その原因遺伝子であるDROL1はスプライシング因子をコードしている。この変異株ではAT-ACを末端の塩基配列として持つイントロンのスプライシングが阻害されていた。NRPA2の1番目のイントロンはAT-AC型で、drol1-1変異株ではスプライシングが抑制されていた。しかしながらdrol1変異株は生存可能であることからNRPA2のスプライシングが完全に失われているのではないと考えられる。またNRPA2の1番目のイントロンは96 bpで、1番目のエキソンから続くフレーム内に終止コドンが存在していない。そのため、スプライシングされていないNRPA2のmRNAからはN末側に余分な32アミノ酸が挿入されたものが翻訳されて、一部機能している可能性が考えられた。drol1変異株の表現型の一部はNRPA2の機能欠損によるものではないかという仮説を検証するために、予めイントロンを欠失させた遺伝子を導入してその表現型を解析することを目的とした。NRPA2からAT-AC型イントロンを欠失させた遺伝子をdrol1変異株に導入した場合、野生型株に近い表現型を示す個体があった。このことからdrol1の形態形成上の表現型の大部分はNRPA2のAT-AC型イントロンのスプライシング異常によるものと考えられた。

サボテンゲノムの解読

石田 優輝

サボテンは南・北アメリカ大陸及びそれに付随する島々の、乾燥した地域に自生しており、砂漠に生える逞しい生物である。メキシコではサボテンは食用農作物として扱われ、メキシコ料理に欠かせない食材として存在し、ブラジルでは総面積50万ヘクタールを超える飼料用サボテンのプランテーションが存在する。このようにしてサボテンという植物は利用価値のある植物として広く知られており、初期研究報告では温室効果ガスの排出削減に効果がある事が分かっている。また、サボテンは土壌地質の改善が期待できる植物である事も判明している。しかしサボテンの研究はまだまだ発展途上である。

将来サボテンを高度に利用していくためにはその生理や生態を遺伝子の観点から調べていく事が欠かせない。そのためにサボテンのゲノムを調べ、遺伝子を同定する事が重要な基盤となる。そこで本研究ではサボテンゲンノムの解読を目的とし、タンパク質をコードするものに絞って遺伝子を網羅的にサボテンゲノムのアノテーションを行った。アノテーションには次世代シーケンサーを用いたRNA-seaquencingのデータを活用し、得られたゲノムコンティグ及びcDNAコンティグのアライメントからGFF表記のデータを作成。遺伝子の構造を決定した。

AT-AC型イントロンのスプライシング変異株の探索

扇谷 ひなた

真核生物の構造遺伝子はイントロンとエキソンで構成されていることが多く、イントロンはスプライソソームによってmRNAから除かれる。イントロンにはU2型とU12型の2種類がある。U2型のほぼ全てとU12型の3分の2のイントロンがGTで始まりAGで終わり、U12型の残りの3分の1のントロンはATで始まりACで終わる。イントロンの殆どはU2型で、U12型はまれに存在し、シロイヌナズナではイントロン全体の約0.2%がU12型イントロンである。シロイヌナズナのDROL1遺伝子の変異株ではAT-AC型イントロンのスプライシングが抑制されることからDROL1はAT-AC型イントロンのスプライシングに必要なタンパク質であることが分かったが、どのようにAT-AC型イントロンのスプライシングに関与しているかは明らかでない。そこで、本研究ではAT-AC型イントロンのスプライシングに欠損のある新たな変異株の探索を試みた。そして全ゲノム解析が終了している事を活かしてその原因遺伝子を探りDROL1と共同でスプライシングを行う因子を同定することを目的とした。そのためにNHX5の10番目のイントロン、NRPA2の1番目のイントロンを用いてAT-AC型イントロンのスプライシングが行われない時にハイグロマイシン耐性となるようなレポーター遺伝子を作成した。これをシロイヌナズナの野生型株とdrol1-1株に導入したところ、NHX5の実験では野生型株とdrol1-1株共にハイグロマイシン耐性となった。NRPA2の実験は今後T2のハイグロマイシン耐性の確認を行った後、T3を得る。得た種子を薬剤処理し変異を誘発した後、ハイグロマイシン耐性を示す株を見つけることでdrol変異株と同様にAT-AC型イントロンのスプライシングが抑制された株を単離できるだろう。

シロイヌナズナdrol1変異株のサプレッサーの探索

小野 凱生

オレオシンの発芽後の発現抑制に異常を示す変異株として単離されたシロイヌナズナのdrol1変異株は、子葉が平べったく紫色を帯びており、発芽や本葉の出現が遅い、根が短い、高塩濃度に感受性を示すなどの表現型を示す。その原因遺伝子はスプライシング因子をコードしていたが、表現型との関係はよくわかっていない。そこでこのDROL1遺伝子と相互作用する新たな遺伝子を見つけてDROL1の機能を明らかとすることを目的とした。EMS処理したdrol1-1変異株の中からdrol1の表現型が抑制されたサプレッサーをスクリーニングしたところ候補を54 個得た。そのうち顕著にdrol1-1変異株の表現型が抑制されていた#8-5を解析した。#8-5をdrol1-1と交配し、F2を得、Col株に近い生長をした個体を選抜し、次世代シーケンサーによって全ゲノムを解読した。その結果BRR2b遺伝子に変異が生じていることが分かった。今後はBRR2bの変異により#8-5でdrol1-1の表現型が抑制されたことを証明する必要がある。

シロイヌナズナDROL1タンパク質の細胞内局在の解析

勝原 勇吾

種子植物は次世代の栄養として種子に様々な物質を蓄積しており、その成分のうちの油脂は食料としてだけでなく、化成品原料、燃料、バイオディーゼルの原料など、様々な用途に用いられている。油脂の生産性を向上させるために、シロイヌナズナを用いた種子油脂貯蔵プログラムの遺伝学的な研究が行われた。その過程で発芽後も油脂の蓄積に必要なオレオシンの発現が継続する変異株drol1が単離された。drol1変異株の原因遺伝子であるDROL1はスプライシング因子をコードしていることが明らかとなったが、その詳細な機能は不明であった。本研究ではDROL1の機能の手掛かりをえるためにDROL1タンパク質の細胞内局在を明らかにすることを目的とした。そのためにDROL1タンパク質のC末端側に蛍光タンパク質であるGFPを融合したDROL1-GFPタンパク質を発現するDROL1-G3GFP遺伝子をシロイヌナズナdrol1-2変異株に導入し、蛍光顕微鏡で観察することにした。蛍光顕微鏡を用いた結果、核と思われる部分にDROL1が局在していることを確認した。これはDROL1がスプライシング因子をコードして、スプライシング反応は核内で起きることと合致していると考えた。
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シロイヌナズナのdrol1変異株の表現型におけるNHX5の役割の解析

佐々木 智哉

シロイヌナズナのdrol1変異株は発芽後のオレオシンの発現が抑制されない変異株として単離された。その原因遺伝子はスプライシング因子をコードしており、DROL1と命名された。その後の解析の結果drol1変異株では末端の塩基配列がAT-ACであるイントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることが分かった。そのためdrol1変異株の表現型はこれらAT-AC型イントロンを持つ遺伝子のスプライシング異常に起因すると推測された。

AT-AC型のイントロンを持つ遺伝子の中にNHX5遺伝子とNHX6遺伝子がある。NHX5遺伝子とNHX6遺伝子はNa+/H+交換輸送体をコードしており、この二重変異株は高塩濃度に対して感受性を示すことが報告されている。drol1変異株ではNHX5とNHX6のAT-AC型イントロンのスプライシングが抑制されていることから、二重変異株と似た表現型となるのではないかと考え調べたところ、野生型株よりも塩濃度に高感受性を示した。そこでAT-AC型イントロンを除いたNHX5遺伝子(NHX5gdI)をdrol1変異株に導入すればNHX5の機能が回復し、表現型が戻るのではないかと考えた。NHX5遺伝子をプロモーターを含めてクローニングし、それから2つのAT-AC型イントロンを欠失させた。これをdrol1変異株に導入し、その表現型を観察した。しかしAT-ACイントロン欠失型のNHX5はdrol1変異株の根が短いとか本葉の展開が遅いといった表現型を抑制することはできなかった。今後はdrol1変異株の高塩濃度感受性がNHX5gdIの導入で抑えられたかどうかを調べていく必要がある。

drol1変異株の表現型におけるEXO1の役割の解析

笹俣 由乃

drol1変異株では発芽後のオレオシン遺伝子(油脂を蓄積するオイルボディの膜表面にあるタンパク質)の発現抑制が起きない。drol1変異株の原因遺伝子を同定したところ、スプライシング因子をコードしていることがわかった。さらに解析を進めたところシロイヌナズナのイントロン約125000個のうちたった0.06% (70個程)しか存在しないAT?ACイントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることがわかった。drol1変異株はオレオシン遺伝子の脱発現抑制以外にも子葉が下向きにカールしている、根が短いといった表現型を示す。これらの表現型はAT?AC型イントロンを持つ遺伝子のスプライシング異常によって引き起こされると考えられるものの、どの遺伝子の異常が主に効いているのかはわかっていない。AT-ACイントロンを持つ遺伝子の一つにEXO1がある。EXO1はエキソヌクレアーゼをコードしており、DNAの修復に関わっていると考えられる。DNAの修復に関わる遺伝子に欠損を持つ変異株にはdrol1変異株で見られるような形態異常を示すものがあるので、drol1変異株の表現型はEXO1の機能欠損によるものではないかと考えられた。そこで本研究では、drol1-1変異株にAT-ACイントロンを除去したEXO1遺伝子を導入し、表現型に与える変化を観察した。その結果、AT-ACイントロンを除去したEXO1gを挿入しても子葉、根の長さの双方に変化が見られなかった。この結果からdrol1-1変異株の表現型においてEXO1遺伝子単体では関与していないと考えられる。今後はAT-ACイントロンを持つ他の遺伝子について調べdrol1-1株の表現型が決定されているのかを引き続き調べる必要がある。

drol1変異株の表現型におけるHD2Dの影響の解析

志藤 敦洋

シロイヌナズナDROL1遺伝子はスプライシング因子をコードしており、末端の塩基配列がAT-ACとなっているまれなイントロンのスプライシングに必要な因子である。AT-AC型イントロンを持つ遺伝子の一つにHD2遺伝子がある。HD2遺伝子はヒストン脱アセチル化酵素をコードしており、シロイヌナズにはHD2AからHD2Dまでの4 個が存在する。HD2Aを除く3個の遺伝子にはAT-AC型イントロンがあり、drol1変異株ではそれらのスプライシングが抑制されていた。drol1変異株の高塩濃度感受性や葉の形態異常がこれらのスプライシング抑制による可能性を調べるためにHD2D遺伝子に着目して研究を行った。方法としてAT-AC型イントロンを削除したHD2D 遺伝子(HD2DgdI)をつくり、drol1変異株に導入して表現型の観察をした。HD2DgdIおよびイントロンを除く前のHD2Dgのいずれを導入した場合もdrol1の短い根や子葉の形に影響を与えなかった。drol1変異株の高塩濃度感受性に影響を与えるかどうかを調べたところ、HD2DgdIを導入した場合は0 mMと10 mMのNaClを含む培地上でより根が短くなったことからHD2Dは伸長に影響しているのではないかと考えた。

シロイヌナズナdrol1変異株の表現型におけるBRCC36Aの役割の解析

白木 大和

シロイヌナズナのdrol1変異株は発芽後にオレオシン遺伝子の発現抑制が起きない変異株として単離され、その原因遺伝子はスプライシング因子をコードしていた。drol1変異株ではAT-ACイントロンのスプライシングが特異的に阻害されており、それが変異株の表現型の原因であると考えられた。AT-ACイントロンを持つ遺伝子にBRCC36Aというものがある。BRCC36Aは乳がんの原因因子であるBRCAと直接相互作用しており、DNAの複製に関係している遺伝子である。drol1変異株の表現型がBRCC36Aの機能欠損によるものかどうかを調べるために、あらかじめAT-ACイントロンを取り除いたBRCC36A を変異株に導入した。作成した形質転換体は本葉の展開が遅く、根毛の長さ、密度についても違いがあった。これらのことからBRCC36Aはdrol1変異株において葉の生育を抑制、根毛の成長の抑制、根毛の密度を高める働きがあるのではないかと考えられた。

シロイヌナズナのdrol1変異株の発芽時の表現型におけるDPB2遺伝子の機能

杉本 紗都

シロイヌナズナのdrol1変異株の芽生えは野生型と比較すると子葉は開き切らずV字状で根の長さは短い。drol1変異株の原因はDROL1遺伝子の変異であり、それはスプライシング因子をコードしていた。drol1変異株では末端がAT-AC型のイントロンのスプライスングが阻害されていることが明らかとなり、drol1変異株の表現型はこれらの遺伝子の機能が阻害されたことによるものと推測された。AT-AC型イントロンを持つ遺伝子はシロイヌナズナに約70個存在し、その一つにDPB2がある。

DPB2はゲノムDNAの複製を担うDNAポリメラーゼの調節サブユニットをコードしており、シロイヌナズナの生存に必須の遺伝子である。それがスプライシングされないことで機能が損なわれdrol1変異株の発芽表現型につながっている可能性が考えられた。そのためあらかじめAT-AC型イントロンの部分を除去したDPB2をdrol1変異株に導入することでその表現型を抑制できるのではないかと考え、それを調べることにした。

DPB2遺伝子のクローニング後にBP反応を行い、その反応産物を大腸菌に導入した。インバースPCRとライゲーションでAT-AC型イントロンを除いたDPB2gdIの作成を行った。野生型株とdrol1変異株のT1種にそれぞれDPB2gとDPB2gdIを導入し、育成させて採取したT2種を発芽させた。その表現型を観察したところDPB2g、DPB2gdIを組み込んだ形質転換体のdrol1と非形質転換体のdrol1とで大きな差が見られなかった。このことからDPB2のAT-AC型イントロンのスプライシング低下はdrol1変異株の表現型には大きな影響をあたえていないことが分かった。

AT-AC型イントロンのスプライシング異常を検出するレポーター遺伝子の作成

中川 大志

真核生物のイントロンの末端の塩基配列は98%以上がGTで始まりAGで終わっている。これに対しごく一部がATで始まりACで終わるAT-AC型イントロンとなっている。イントロンはスプライソソームによってpre-mRNAから切り出されるが、スプライソソームには主要なU2依存型とごく一部のイントロンだけをスプライシングするU12依存型がある。U12依存型スプライソソームが基質とするイントロンはその特徴的な配列によって区別され、末端の塩基配列はGT-AGとAT-ACがおよそ2対1の割合となっている。シロイヌナズナのdrol1変異株ではAT-AC型イントロンのみがスプライシングされない状態で残っており、U12型イントロンの中でもGT-AGとAT-ACでは異なるスプライシング機構があることを初めて示した。しかし、そのしくみは全く不明であり、さらなる研究を必要とした。本研究ではAT-AC型イントロンのスプライシングに異常のある変異株の単離を目指し、効率的なスクリーニングのためのレポーター遺伝子の作成を試みた。AT-AC型イントロンを持つNRPA2遺伝子を利用し、スプライシングが抑制されたときにルシフェラーゼやGFPを発現するような遺伝子を作成した。