2017年度 卒論要旨

クンショウモの遺伝的多様性の解析

浅見 洋一、前田 慎貴、樅山 優馬

クンショウモ(Pediastrum属)は湖沼や池に住んでいる微細藻類でその特徴的な形態で容易に区別できる。4、8、16,32,64という2のn乗個の細胞が集まって群体を形成している。本研究では今後クンショウモを分子生物学的、遺伝学的な手法で解析していくための研究資源(リソース)を得ることを目的とした。遺伝的に多様な株を得て、遺伝地図の作成につなげるために中部大学30号館の池からクンショウモを採取し、株化することを試みた。その結果新しいクンショウモの株(Chu2株)を得た。Chu2株からRNAを抽出し、RNA-Seqを行った。得られた塩基配列の中から葉緑体にコードされるrbcL遺伝子を探し、そのアミノ酸配列および塩基配列を他の株と比較した。rbcLのアミノ酸配列は既存の株と一致し、Chu2株はPediastrum duplexであることが分かった。塩基配列の解析結果はPdup3-1などと一致したが、Nii4株とは異なった。

クンショウモの細胞分裂の観察

岩田 穂乃香

植物工場で栽培するトマトの収量を増加させることができる新しい台木品種の開発が求められている。すでにオランダにおいてこの目的のために使用されているMaxifort株と日本で耐病性を高めるために使用されているSpikeもしくはSpike23株とを交配し、そのF1の形質を評価しながら、その形質に寄与する遺伝子の同定を試みた。

それぞれのF1の葉からDNAを抽出し、多数のSNPマーカーをPCRと次世代型シーケンサーを用いて遺伝子型を同定した。143個のF1を調べ、QTL解析を行った結果、評価した形質(葉の巻き、葉の大きさ、茎の太さ)のそれぞれの寄与する染色体の領域を特定することができた。今後それぞれの領域にある遺伝子マーカーを使うことで、株の選抜を簡便かつ速やかに行うことができると期待される。

イネの胚発生に必要な遺伝子に関する研究

太田 啓貴、清水 秀明、山内 みなみ

植物の発芽後の形態形成は主に分裂組織によって担われている。 茎頂および根端に存在する分裂組織は胚発生の過程で形成されるが、その遺伝的な基盤については未解明の部分も多い。 本研究はイネの胚発生に異常を示す変異株Mutant3の原因遺伝子を同定することを目的とした。 変異株のゲノムを次世代型シーケンサーによって解析したところ、表現型と連鎖していると考えられる変異が複数見つかった。 本研究ではこれらの変異の有無を確認するとともに、表現型との連鎖を調べた。
種子中の胚を観察したところ、Mutant3では野生株と変異株の両方が確認された。 このことから使用した種は変異のヘテロで保持していた親に由来することが確認できた。 そこで変異が存在する可能性が示唆されたOs05t428600の塩基配列を調べたところ、次世代型シーケンサーの結果と一致せず、1937番目と1944番目の塩基が置換していないことが確認できた。

種子の油脂貯蔵を制御する遺伝子メカニズムの解析

関谷 真行、竹内 瑠圭

種子植物の種子に蓄積されている油脂は食料としてだけでなく化成品原料、燃料などにも使われ、近年バイオディーゼルの原料としても重要性を増している。本研究は油脂の生産性を向上させるために、脂肪性種子のシロイヌナズナを用いて種子成熟過程における油脂合成を制御する遺伝子の解明を目的とした。これまでの研究から発芽後のオレオシン遺伝子の抑制のためにDROL1遺伝子が必要であること、またDROL1は末端の塩基配列がGT-AGでないイントロンのスプライシングに必要な因子であることがわかってきた。GT-AGでないイントロンを持つ遺伝子には三つのHDACが含まれていた。そこで発芽後の遺伝子発現抑制にはこれらのHDACが関わっているかどうかを調べるために、HDACの阻害剤であるトリコスタチンAで植物を処理したときにOLE3を始めとする遺伝子群の発現が活性化するかどうかを調べた。実験の結果、TSAの働きによって植物の生長に影響が表れたものの、OLE3の発現には変化が見られなかった。またRNA-Seqを行ったところTSA処理で多数の遺伝子の発現が変化している様子が見られたが、それらはdrol1変異株で見られる変化とはあまり一致しなかった。drol1変異株の表現型はHDACのスプライシングに依存しない部分が大きいと考えられた。

DNAマーカーを利用した光周性を持つ新規トマト系統の育種

谷口 あすか、鳥居 将和、中嶋 舜

農業を魅力あるものとし、食料の増産を図るためには生産性の向上が必要であり、このことは農業従事者の平均年齢の上昇を補うものである。トマトは生食だけでなくケチャップやジュースといった加工食品としても多く消費されている。トマトの開花は日長にあまり依存しておらず、結実を制御することが難しい。本研究ではトマトに光周性を与える遺伝子を導入することにより収穫時期をコントロールし、生産性を向上させることを目的とした。

大玉で良食味の系統とトマト近縁種に由来する短日で開花する光周性を持つ系統を交配した。さらにこのF1を良食味の系統に戻し交配し、34株のF2を得た。それぞれのF2の葉からDNAを抽出し、182個のSNPマーカーの遺伝型をPCRと次世代型シーケンサーを用いて調べた。マーカー間の組み換え頻度を計算し遺伝地図を作成すると同時に、良食味の系統に近い株を選抜した。光周性遺伝子が存在する5番染色体の下部では他の部位より物理距離
に対して組み換え頻度が低くなっていることがわかった。

シロイヌナズナの油脂合成系遺伝子活性化因子の探索

杉浦 若奈

日常生活の幅広い用途で使われる植物性油脂生産性の向上につなげるために、モデル植物シロイヌナズナの油脂合成系遺伝子の活性化因子を分子遺伝学的に探索・同定することを目的として研究を行った。

これまでに、種子形成中期につくられる転写因子WRI1がプラスチドで働く脂肪酸合成系遺伝子群を一斉に活性化することが明らかにされているが、それらより後期に発現するDGAT1など小胞体での油脂合成系遺伝子の活性化機構の詳細は分かっていない。そのため、DGAT1遺伝子のプロモーターにウミホタルルシフェラーゼ(LUC)のコード配列をつないだDGAT1p:LUCレポーター遺伝子導入株を用い、アクティベーションタギング法を使って
活性化因子の探索を行った。

前年度までの先輩らの実験などから後代でもLUC発光の強い候補株を絞り、エンハンサーT-DNAの挿入位置を次世代シーケンサーを用いて解析した。その結果、最もLUC発光の強い#28株では染色体の4ヶ所にT-DNAの挿入が確認されたため、親株との戻し交配後代でエンハンサー挿入部位の分離を行い、エンハンサーを1ヶ所だけ持つ株を選出してそれぞれの植物のLUC発光強度を調べた。その結果、染色体のLocus1のエンハンサーだけ持っている株は、1株だけ発光が弱かったものの、他の4株はいずれも強いLUC発光を示し、エンハンサーとの関連が示唆されたが、結論付けるところまではいかなかった。Locus1のエンハンサー挿入部位前後10kb以内には、転写因子をコードする遺伝子が2つ含まれており活性化に関わる可能性がある。

今後の課題として、更なる検証よってLocus1のエンハンサーと強いLUC発光との関連を確認し、Locus1近傍の2つの転写因子遺伝子のエンハンサーによる発現増加の確認が必要である。これらの確認ができたら、T-DNA挿入遺伝子破壊株や、35Sプロモーターによる過剰発現株について、DGAT1遺伝子の発現や種子の油脂含量を調べることでDGAT1遺伝子の活性化因子かどうかを直接明らかにできると期待される。