リチウムイオン電池とジャガイモのエネルギー密度

脱炭素社会を実現するために解決しなければいけない課題の一つにエネルギーの確保があります。太陽光発電はクリーンなエネルギーで炭素を排出しないので有力な解決方法の一つですが、日中しか発電できないことが問題となります。太陽光発電だけで生活しようとすると日中の発電量をなんらかの形で溜めておくことが必要となりますが、どうやって溜めるのかという新しい課題がでてきます。

電気を溜めるのだから電池を使えばいいと思うでしょう。2022年の現在においてもっとも優秀な充電できる電池はリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池がどのぐらいの電気を溜めることができるか調べてみると、201 Wh/kgとありました[リチウムイオン電池回路設計入門]。

Wh(ワットアワー)という単位は1W (ワット)の電力を1時間使ったという意味で、私の家では250-350 kWhぐらいを毎月使っています。W(ワット)は中学校で習う理科にもでてくる電力の単位で、1Vの電圧で1Aの電流が流れたときの仕事量を表します。家庭用では125Vの交流が使われるので、8mAの電流が流れれば1Wの電力ということになります(家庭の電気は交流が使われているので、実際にはこの計算は不適切ですが)。Wh(ワットアワー)は1Wを1時間使ったときの電力量で、そのエネルギーは3600 J(ジュール)となります。つまり201 Wh/kgは 201 x 3600 = 723,600 J/kg となり、およそ720 kJ (キロジュール)のエネルギーを1kgのリチウムイオン電池は蓄えられることになります。

これがどのぐらいの大きさかということをジャガイモと比較してみます。ジャガイモのもつエネルギーはcal (カロリー)で表され、調べてみると89 kcal/150gとありました。つまり593 kcal/kg です。1 cal = 約 4.2 Jなので、ジャガイモのエネルギー密度は約 2,500 kJ/kgとなります。リチウムイオン電池の3.4倍ぐらいのエネルギー密度があります。エネルギーを蓄えるという観点で言えばジャガイモはリチウムイオン電池の3.4倍高性能です(しかも発火することもなく安全に保管できる)。

ジャガイモ中のデンプンに蓄えられた化学エネルギーを素早く電気に変換することができれば、電気自動車の航続距離ももっと伸びるし、スマートフォンももっと軽くなるということです。でもそういうことができないので、ジャガイモは電池にならないのです。

ちなみに、水素のエネルギー密度は33 kWh/kg = 約120 MJ/kg [日本重化学工業株式会社] なので、同じ重さのジャガイモよりも50倍近くのエネルギーをもっていることになります。太陽光発電で得たエネルギーで水を電気分解して水素の形で蓄積しておけるといいのですが、それにはまた別の問題(安全な保存方法)がでてきます。