2023年度 卒論要旨

sudl1変異によるAT–AC型スプライシングの回復過程の解析

藤森 巧眞

シロイヌナズナのdrol1変異株では末端の塩基配列がAT–ACであるイントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることが報告された。また、当研究室で行われた形態形成を指標にしたサプレッサーのスクリーニングで得られたsudl1-1変異をもつとAT–AC型イントロンのスプライシングが回復することも明らかになっている。DROL1を欠いた二重変異株中でどうやってAT–AC型イントロンのスプライシングが起きるのかを調べるため、GT–AG型でもAT–AC型でもスプライシングできるような人工遺伝子を作成した。HD2Bm21とHD2Bm13と名付けた遺伝子を形質転換で導入し、RT-PCRによってエキソンのつなぎ目を増幅し、次世代シーケンサーで解読した。野生株とsudl1の単独変異株ではAT–AC型イントロンのスプライシングが行われたが、drol1と二重変異株ではほとんどGT–AG型イントロンのスプライシングだけが起きていた。このことからDROL1がなければAT–AC型のスプライシングは起きないと考えられた。二重変異株ではDROL1のホモログで全ての真核生物がもつDIB1がDROL1の肩代わりをしてAT–AC型イントロンのスプライシングも行っている可能性が考えられた。またイントロンの5’末端と3’末端の配列は任意の組み合わせになることはなく、ほとんどがAT–ACもしくはGT–AGであった。このことからイントロンの端は決まった組み合わせになるような仕組みがスプライソソームにあることが考えられた。

drol1のサプレッサーの解析

石川 翔陽

シロイヌナズナのdrol1は野生株と比較して小さく、子葉が扁平になることや、葉柄が紫色になるなどの表現型を示した。drol1の原因遺伝子はスプライシング因子をコードし、それは末端の塩基配列がAT–ACであるイントロンのスプライシングに必要であることが示された。こうしたdrol1変異株の形態的な表現型を指標にしてサプレッサーのスクリーニングが行われ、PRP8に変異を持つ#51-2aと#49-4a、SmBbに変異を持つ#43-2bが単離された。

#51-2aと#43-2bは表現型とそれぞれの原因と考えた変異が連鎖していることを示した。根の長さを測定したところ、いずれも半優性であることがわかった。#43-2b のホモ接合体の根の長さは野生株とほとんど同じであったが、#51-2aは野生株よりも長く、根の伸長を促進する効果があると考えた。#49-4aは遺伝子型と表現型が一致していない個体が多く、PRP8に起きた変異はサプレッサーの原因遺伝子ではないと考えた。

DROL1とSmBbの遺伝的相互作用の解析

伊藤 瑞歩

シロイヌナズナのdrol1変異株は発芽が遅く、子葉が扁平となり、全体に赤紫色がかった小さな植物になる。その原因遺伝子のDROL1はスプライシング因子をコードし、末端の塩基配列がAT–ACであるイントロンのスプライシングに特異的に必要であることが示された。          

これまでにdrol1の形態を指標にして、サプレッサーのスクリーニングが行われ、多数の変異株が得られている。本研究ではこのうちのsudl4-1 (旧#40-2b)の解析を行った。sudl4-1はmRNAのスプライシングを行うスプライソソームのサブユニットであるSmBbにアミノ酸置換を引き起こす変異があることが分かっていた。本研究ではsudl4-1の性質を明らかにするとともに、SmBbの変異がサプレッサーであることを調べた。

 サプレッサーを野生株に戻し交配し、sudl4-1変異だけを持つ株とdrol1-1との二重変異株(ds4-1)を確立した。sudl4-1、ds4-1はともに野生株とほとんど同じ表現型を示し、sudl4-1drol1のほぼ完全なサプレッサーであることが分かった。またsudl4-1は野生株に対してはほとんど影響を与えないことが分かった。SmBbのタンパク質コード領域をクローニングし、35Sプロモーターの下流で発現させたところ、ds4-1の表現型をdrol1に近づけることが分かった。この結果からSmBbがsudl4-1の原因遺伝子であると結論した。またdrol1-2sudl4-1を導入したところ、drol1-2の表現型も抑圧した。

PRP6とDROL1の遺伝的相互作用の解析

大隅 壮稀

シロイヌナズナのdrol1変異株は野生株と比べて発育が遅く、葉が尖り、葉柄が赤紫色になりやすいなどの表現型を示す。これまでにそのサプレッサーのスクリーニングが行われ、複数の株が単離された。その中の#47-1aはスプライソソームのサブユニットの一つであるPRP6に変異があることがわかった。本研究ではこの変異がdrol1の表現型を抑圧することを証明した。

#47-1aをdrol1に戻し交配し、得られたF2の遺伝子型と表現型を調べた。138株を調べたところ、全てでPRP6に起きた変異と表現型が連鎖しており、優性の変異であることが分かった。またクローニングしたPRP6を#47-1aに導入すると表現型がdrol1に戻ること、変異型のPRP6をdrol1に導入すると表現型が抑圧されることを示した。

#47-1aの根の長さを測ると、野生株よりもやや短く、サプレッサーの効果は完全ではなく、やや弱いということも分かった。

TONSOKUとATRの遺伝的相互作用の研究

加藤 匠将

シロイヌナズナのtonsoku (tsk)変異株は短い根、葉序の乱れなどの多面的な表現型を示す。特に根において、規則正しい細胞列が乱れていることがわかり、細胞分裂・細胞周期の調節における役割が考えられている。tskの細胞周期が調べられたところG2期からM期にある細胞の割合が高く、野生株に比べて長い時間がかかっているのではないかと考えられた。tsk変異株中ではDNA修復に関わる遺伝子が活性化していることも明らかになっている。これらのことから、tskでは細胞周期のG2/Mチェックポイントが活性化することで、細胞周期の進行が止められているのではないかと考えられた。G2/Mチェックポイントを活性化させる遺伝子としてATRが知られている。そこでtsk/atrの二重変異株をつくり、その表現型を調べた。

核を可視化するためにRPS5A:H2B-GFPを導入し、根端を観察した。野生株では、根端から視野に入るところまで核に強い蛍光が見られた。一方、tsk-1では根端の蛍光は比較的強く見えたが、地上部のほうに向かって急速に弱くなっていった。

細胞膜を可視化するためにLT1-tdTomatoを導入し、同様に観察した。野生株では根端から地上部へと細胞が列をなしているように見えたが、tsk-1では根端に近い中心部分で細胞の形が明確でなくなっていた。tsk-1/atr-2は野生株と少し異なっていたが、細胞が列をなしている点ではtsk-1の表現型が抑圧されていた。

G2/ M期に発現するCYCB1;2-GFPを導入し、観察した。GFPの発現はtsk-3では根端のほうに集中していたが、tsk-3/atr-4では野生株と同様の発現パターンを示した。これらのことから、atrtskの表現型を抑圧することが明らかになった。

DROL1とPRP8の遺伝的相互作用の解析

菊池 里緒

シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシン遺伝子の発芽後の発現抑制に異常を起こす変異株として単離された。drol1変異株では子葉が平べったく紫色を帯びる、発芽や本葉の出現が遅い、根が短いなどの表現型を示す。drol1の形態異常を指標に、サプレッサーのスクリーニングが行われ、得られたものの一つがsudl3-1で、PRP8遺伝子上にアミノ酸置換を伴う塩基置換があることが明らかになった。PRP8とはU5 snRNPの最も大きなサブユニットであり、その破壊株は致死となることが既に分かっている。一方、スプライシングの機能に影響を与える多数のアミノ酸置換の変異株も報告されているが、それらがAT–AC型スプライシングにも影響を与えるかは不明である。そのため、本研究ではsudl3-1drol1のサプレッサーであるかを調べた。

サプレッサーを野生株と交配し、その子孫からDROL1/drol1-1とSUDL1/sudl3-1をそれぞれホモ接合体に持つ株を確立した。sudl3-1をホモ接合に持つdrol1は野生株と見分けがつかなかった。sudl3-1の根の長さにおよぼす影響を調べたところ、そのホモ接合体は野生株とほとんど同じであったが、ヘテロ接合体は野生株よりも短かった。このことからsudl3-1は半優性にdrol1のサプレッサーとして働くことが分かった。

sudl3-1からPRP8をクローニングし、drol1-1に導入したところ、野生株の表現型を示すようになった。このことはPRP8に起きたsudl3-1変異はdrol1の表現型を抑圧できることがわかった。

ttl変異株の相補実験

森本 美音

2021年にヒトの多彩異数性モザイク症候群(MVA)の原因遺伝子としてCENATACが同定された。CENATAC遺伝子に変異を持つ細胞ではイントロンの末端がAT–ACとなるようなスプライシングが抑制されており、drol1変異株と似た現象が起きていると考えられた。シロイヌナズナにもCENATAC遺伝子のオルソログが存在し、TTLと命名されていた。TTLがシロイヌナズナでもAT–AC型イントロンのスプライシングに関わるかを調べるため、CRISPR-Cas9を使ってTTLの変異株が作成された。そのうちの一つのttl-142はAT–AC型イントロンのスプライシング抑制がみられたが、同様の表現型を示すものがなく、TTL遺伝子に起きた欠失によるものであることに確証がなかった。そこで変異株にTTL遺伝子を導入する相補実験を行った。ttl-142は観察時期によってColとの差が明確ではなく、導入したTTLの効果がわかりにくかった。ttl-139のホモ接合体は発芽後に生育が止まるが、TTLを導入することで生育可能となった。ttl-139はしばしば双子の表現型を示すが、TTLのcDNAを35Sプロモーターで発現させたとき、得られた形質転換体の中に元気な双子や三つ子が現れた。