2022年度 卒論要旨

drol1のサプレッサーの探索と原因遺伝子の同定

荒牧 大介

シロイヌナズナのdrol1変異株は子葉が平べったく紫色を帯びている、発芽や本葉の出現が遅い、根が短いなどの表現型を示す。変異株の原因遺伝子はスプライシング因子のホモログをコードしており、drol1中ではAT-AC 型イントロンのスプライシングが抑制されていることが明らかとなった。しかし、それがどのように表現型につながるのかは不明である。そこでdrol1変異株の表現型を抑制するサプレッサーのスクリーニングが行われた。本研究ではすでに得られていたサプレッサーの候補から二次スクリーニングを行い、新たに8株のサプレッサーを得た。原因遺伝子を調べたところ、4株は既知のスプライシング因子に変異をもっていることがわかった。

HD2BのAT-AC型イントロンのDORL1に依存したスプライシング機構の解析

伊藤 佑真

真核生物が持つイントロンのほぼ全ては5’端の塩基配列がGTで、3’端がAGとなっているが、例外的にATで始まりACで終わるイントロンが知られていた。シロイヌナズナのdrol1変異株ではAT-AC型イントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることが報告されたが、DORL1の機能についてはほとんど不明である。そこで、シロイヌナズナHD2B遺伝子の3番目のイントロンを使って、AT-AC型イントロンがどのような仕組みでDORL1依存的にスプライシングされているのかを調べた。

HD2B遺伝子のプロモーターから4番目のエキソンまでをクローニングし、mRFPを繋いだ組み替え遺伝子を作成した。また、3番目のイントロンの末端塩基配列をAT-ACからGT-AG、GT-AC、AT-AGに置換し、それぞれ植物に導入した。mRFPを観察したところ、AT-AC型は野生株のみ蛍光を発し、GT-AG型はdrol1-1でも蛍光を発した。

次世代シーケンサーでスプライシングパターンを解析したところ、野生株においてAT-ACとGT-AGは同じ位置でのスプライシングがほとんどあったが、AT-AGではスプライシングされないものも増え、GT-ACでは3’端が変わったスプライシングが多く見られた。drol1-1では、GT-AGはほぼスプライシングされたが、AT-ACはほとんどスプライシングされなかった。GT-ACとAT-AGもスプライシングされていないものが増えた。これらの結果から、AT-AC型イントロンのスプライシングにはDORL1タンパク質の機能が必要であることが確かめられた。またイントロンの3’末端はAGとなるようにスプライシングパターンが変化すること、DORL1は5’末端がATである場合に必要であると考えられた。

NRPA2のAT-AC型イントロンのDROL1に依存したスプライシング機構の解析

稲波 右里子

シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシン遺伝子の発芽後の発現抑制が起きない変異株として単離された。drol1変異株の原因遺伝子であるDROL1はスプライシング因子をコードしており、AT-AC型イントロンのスプライシングに必要であることが明らかとなった。AT-AC型イントロンを持つ遺伝子の1つにNRPA2 (Nuclear RNA Polymerase A2)があり、このNRPA2は一番目のイントロンがAT-AC型である。本研究では、NRPA2を使ってDROL1がAT-AC型イントロンのスプライシングにどのように関わっているのかを調べた。

NRPA2のプロモーターから3番目のエキソンまでクローニングし、mRFPをつないだ。またAT-AC型イントロンの末端に塩基置換を入れ、末端がGT-AGとなるように改変型遺伝子を作成した。それらをシロイヌナズナに導入し、RFPの発現と塩基配列からスプライシングの有無を調べた。RFPの発現は確認することはできなかったが、抽出したRNAを次世代シーケンサーで解析したところ、いずれもスプライシングが起きていることが確認された。AT-AC型はCol株ではスプライシングされるものの、drol1-1変異株ではスプライシングされなかった。一方GT-AG型はdrol1-1変異株中でもスプライシングがされていた。この結果から、AT-AC型イントロンのスプライシングにはDROL1を必要とするがGT-AG型イントロンのスプライシングには必要としないことが分かった。

UXS2のAT-AC型イントロンのDROL1に依存したスプライシング機構の解析

井上 樹

多くの真核生物はイントロンを持ち、そのほとんど全ては5’末端がGTで、3’末端はAGとなっている。しかし、ごく一部にATではじまりACで終わるイントロンがある(AT-AC型イントロン)。AT-AC型イントロンは全ての植物と脊椎動物、およびその他の生物が持っており、進化の過程で保存された何らかの機能をもっていると考えられる。

シロイヌナズナのDROL1遺伝子はAT-AC型イントロンのスプライシングに必要であることが報告されているが、どのような働きがあるのかは不明である。本研究ではUDPキシロース合成酵素(UXS2)がもつAT-AC型イントロンを対象にDROL1の機能の解析を行った。

UXS2のプロモーターから2番目のエキソンまでをG3GFPと融合させた遺伝子UXS2p2e-G3GFPをCol株とdrol1変異株で発現させたところ、Colでは根端に蛍光が見られたが、drol1では光らなかった。UXS2の1番目のイントロン(AT-AC型)をGT-AGに置換したところ、drol1に蛍光が見られるようになった。このことから、AT-AC型のスプライシングはDROL1に依存することがわかった。

RT-PCRとシークエンスでスプライシング位置を調べたところ、GT-AGに置換した場合ではスプライシング位置に変わりがないものの、5’側だけをGTに置換した場合は、3’側がずれてGT-AGでスプライシングされるようになった。

DROL1タンパク質の機能部位の同定

小玉 駿介

シロイヌナズナのDROL1は酵母のスプライソソームを構成するU5 snRNPのタンパク質サブユニットであるDIB1のホモログをコードしていた。シロイヌナズナにもDIB1のオルソログ(AtDIB1)が存在し、DROL1とはアミノ酸配列だけでなく、推定される立体構造もよく似ているが、両者は異なる機能を持っている。DROL1はATで始まりACで終わるイントロンに特異的なスプライシング因子であるが、DIB1との差がどのアミノ酸配列の違いによるものかはわかっていない。そこで、DROL1の一部をDIB1に置き換えた組み換え遺伝子を作成し、それがdrol1変異株の表現型を相補できるかを調べた。

DROL1のcDNAにDROL1のプロモーターとターミネーターを結合した組み換え遺伝子を作成したAtDIB1へ置換したものを作成した。これらをdrol1-1変異株に導入したところ、完全なDROL1のcDNAを持つものは野生株の表現型を示したが、全部または一部をAtDIB1に置換したものはdrol1と区別できなかった。

U5-40kタンパク質の機能に必要なアミノ酸配列の同定

齋藤 朝衣

シロイヌナズナの種子中の細胞には、油脂を蓄積するためのオイルボディと呼ばれる細胞小器官が存在し、その膜にオレオシンタンパク質が多量に存在している。オレオシンの発現は種子登熟期には高いが、発芽時には抑制される。発芽後のオレオシンの発現量を指標に変異株の探索を行った結果、発芽後も抑制されないdrol1-1変異株が単離された。drol1変異株は形態形成にも影響があり、野生型株と比較して生長が遅い、子葉が平たい、葉の裏側は紫色を帯びているという表現型を示した。

DROL1の機能を調べるためにdrol1-1変異株のサプレッサーのスクリーニングが行われ、得られた株の一つがds1-1(旧名#8-5)で、それが持つサプレッサー遺伝子をsudl1-1とした。ds1-1のゲノムを調べたところ、U5 snRNPのサブユニットに変異があった。この遺伝子の変異がdrol1のサプレッサーとなることを確認するために、ゲノム編集技術を使って変異を導入したところ、フレームシフトを起こすような変異はサプレッサーとして機能せず、致死となることが明らかとなった。

本研究ではSUDL1の変異がdrol1に致死性をもたらすことを利用してその機能に重要なアミノ酸配列を同定することを試みた。SUDL1のC末側を削ったタンパク質をdrol1変異株で発現させたときに、その表現型を抑圧できるかを実験的に調べた。その結果、3段階に分けてアミノ酸を削ったが、最大38アミノ酸残基を削った場合でもサプレッサーとして機能する可能性が示された。