2019年度 卒論要旨

U12型イントロンのスプライシング変異株の探索

伊藤涼太

真核生物の遺伝子はイントロンによって分断されていることが多い。イントロンはスプライソソームによってmRNAから除かれる。スプライソソームには2種類あり、それぞれU2型とU12型と呼ばれる。U2型はほとんどのイントロンのスプライシングを担っており、U12型はごく一部のイントロンのスプライシングを行っている。U12型イントロンはシロイヌナズナを含む植物、ヒト、マウスなどに存在し、その3分の1ほどの塩基配列はATで始まりACで終わる。シロイヌナズナにおいてはU12型イントロンは全イントロン中0.2%ほどの割合で存在している。U12型スプライソソームを構成するタンパク質の多くはU2型と類似しているが、その詳細はわかっていない。本研究ではU12型イントロンのスプライシングに関わる遺伝子を遺伝学的に単離することを目的とした。そのためにシロイヌナズナのHD2Bの3番目のイントロンを利用した。具体的にはHD2Bの3番目のイントロンをハイグロマイシン耐性遺伝子に挿入し、スプライシング出来ないときにハイグロマイシン耐性となるような人工遺伝子を作成した。これを野生型株とdrol1変異株に導入したところ、drol1変異株だけがハイグロマイシン耐性となった。

クンショウモの細胞分裂の観察

大田 直樹

クンショウモは緑色植物門緑藻網ヨコワミドロ目アミミドロ科クンショウモ属に属する。淡水に生息している緑藻の一種で、その群体の形が勲章のようであったことから命名されている。また、単細胞生物ではあるが、複数の細胞が集まっているため多細胞生物のように活動している。本研究ではクンショウモの核の数と細胞の大きさ、クンショウモの核の数と核の大きさの関係について調べた。
クンショウモの核をDAPIで染色し、核の数と細胞の大きさを調べたところ、核の数は10日目までは微増していたが、12日目に減っていた。植え継いでから12日目が過ぎると核の数と細胞の大きさは小さくなり、12日目ごろに細胞分裂が行われていると考えた。核の数とその面積を調べたところ同じ核の数でも核の大きさにばらつきがあることが分かった。核分裂せずに染色体が増加している可能性が考えられた。

クンショウモの遺伝的多様性の解析

小川 航輝

クンショウモ(Pediastrum属)は湖沼や池に住んでいる微細藻類でその特徴的な形態で容易に区別できる。4、8、16、32、64といった2乗数個の細胞が集まって群体を形成し生活している。本研究では今後クンショウモを分子生物学的、遺伝的な手法で解析していための研究資源(リソース)として遺伝的に多様な株を得ることを目的とした。

中部大学30号館の池からクンショウモを採取し、純粋培養して株化した。その結果クンショウモ3株(PPRN2-1、PPRN2-2、PPRN4)を新たに得ることができた。このうち2株のrRNAの一部の塩基配列をシークエンスしたところ、Pediastrum duplexであることが分かった。

クンショウモの細胞周期の測定

都築 建志

フタヅノクンショウモは緑藻類のクンショウモ属の一種で16~64 個の扁平な細胞からなる定数群体として生息している。細胞は一層に並んで勲章のような形状を呈し、群体の縁に位置する細胞は二つの突起があり、その名前の由来となっている。

クンショウモは親群体を構成する一つの細胞内で、多核化した後、細胞質分裂をへて遊走子が作られる。遊走子は一斉に放出され、親群体と同じ形状の小さな娘群体をつくる。本研究ではこうしたクンショウモの細胞分裂を解析することを目的とした。

ゲル培地で培養したフタヅノクンショウモをよく撹拌し、均一化した。それを少量取り、固体培地に塗り広げた。これを1 週間チャンバーで育成しコロニーを形成させ、肉眼でコロニーを数えた。この作業を繰り返すことで元のゲル培地中のクンショウモの数の変化を算出した。

二つのフタヅノクンショウモの株を用いてコロニーが二倍になる時間を測定したところ、それぞれ3 日と5 日だった。すべての群体が32 この細胞からなると仮定すると、細胞分裂の周期はおよそ15 日と25 日であることが分かった。

シロイヌナズナのDROL1タンパク質の解析

橋本 怜樹

シロイヌナズナの子葉細胞には油脂を蓄積するための細胞内小器官があり、その膜にはオレオシンタンパク質が多量に存在している。オレオシンは種子登熱期には盛んに合成されるが、発芽時に速やかに抑制される。このオレオシンの遺伝子発現を指標にして変異株をスクリーニングし、単離されたものがdrol1変異株である。その原因遺伝子であるDROL1はスプライシング因子をコードしており、他の真核生物にも広く保存されている。シロイヌナズナのDROL1遺伝子を他の生物のホモログと比較したときにシロイヌナズナのものはN末端側に8個アミノ酸が多いことが確認された。また他の生物のホモログのN末端側の相同な位置にメチオニンが存在していることからシロイヌナズナDROL1の翻訳開始点は下流25番目にあるATGではないかと考えた。

そこで本研究ではDROL1遺伝子の2カ所の翻訳開始点前後に一塩基挿入したDROL1遺伝子を作製し、drol1変異株に導入した表現型を実体顕微鏡で観察した。DROL1遺伝子の下流25番目にある2番目の翻訳開始点前までに一塩基を挿入した改変型DROL1を導入した場合drol1変異株の表現型が抑圧されたが、2番目の翻訳開始点直後に挿入したものは表現型を抑圧できなかった。このことからDROL1遺伝子の主要な翻訳開始点は他の真核生物と同じであることがわかった。

DROL1によるHD2BとHD2Cの発現制御の解析

平林航一

シロイヌナズナのDROL1遺伝子はスプライシング因子をコードしており、末端の塩基配列がAT-ACとなっているまれなイントロンのスプライシングに必要な因子であると推測されている。
AT-AC型イントロンを持つ遺伝子にはHD2B、HD2Cがあり、これらの遺伝子はヒストン脱アセチル化酵素をコードしている。このことからdrol1変異株におけるオレオシン遺伝子の脱発現抑制にはHD2BとHD2Cのスプライシング異常が関わっているのではないかと推測された。そこでHD2BとHD2C遺伝子の発現にDROL1がどのように関わっているのかを調べるためにAT-AC型イントロンの有無でそれらの発現がどのように変化するのかを調べることにした。

方法としてHD2BとHD2C遺伝子のそれぞれのプロモーターから3番目または4番目のエキソンまでの領域をクローニングしその下流にGUS遺伝子をつないだ融合遺伝子を作成した。これらをdrol1変異株と交配し、得られたF2をGUS染色した。

F2のうちdrol1の変異型株で4番目のエキソンまでをGUSにつないだ遺伝子(AT-AC型イントロンあり)を持つ株は、同じ遺伝子を持つ野生型株と比べると染色個体数の割合が大幅に低くなった。このことからAT-AC型イントロンの効率的なスプライシングにはDROL1が必要であることが証明された。

DROL1によるNRPA2の発現制御の解析

二木達也

シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシン遺伝子の発芽後の発現抑制が起きなくなっている変異株として単離された。その原因遺伝子であるDROL1はスプライシング因子をコードしており、変異が起こるとAT-ACを末端の塩基配列として持つイントロンのスプライシングが阻害されることがわかった。AT-AC型イントロンを持つ遺伝子の一つにNRPA2がある。NRPA2はrRNAの転写を行うRNAポリメラーゼのサブユニットの1つをコードしている。NRPA2の破壊株は劣性致死であることが報告されているが、drol1変異株は表現型に強弱があるが生存可能であることからNRPA2のスプライシングが完全に失われているのではないと考えられた。本研究ではdrol1変異株の表現型の一部はNRPA2の機能欠損によるものではないかという仮説を検証するために、予めイントロンを欠失させた遺伝子を導入してその表現型を解析することを目的とした。そのためにNRPA2をプロモーターに含めてクローニングした。また一番目のイントロンを除去した遺伝子の作成にも成功した。

HD2Dによる種子発芽後のオレオシン遺伝子の発現抑制の解析

三島寛之

シロイヌナズナのdrol1変異株は発芽後もオレオシン遺伝子が発現抑制されない変異株として単離された。drol1変異株の原因遺伝子を同定したところスプライシングに関与するタンパク質をコードしており、変異株では末端の塩基配列がAT-AC型のイントロンのスプライシングが抑制されていることが分かった。

AT-AC型イントロンを持つ遺伝子の一つにHD2遺伝子がある。HD2遺伝子はヒストン脱アセチル化酵素をコードしており、その発現低下がdrol1変異株の発芽後もオレオシンが発現している表現型の原因ではないかと推測した。そこでdrol1変異株でHD2D遺伝子の機能を回復することで表現型にどのような影響があるのかを調べるために、AT-AC型イントロンを除いたHD2D遺伝子 (HD2DgdI)を作成し、drol1変異株に導入した。

drol1-1変異株にAT-AC型のイントロンを除いたHD2DgdIを導入したものでは地上部に形態上の変化はなく、地下部にのみ変化が見られた。一方でdrol1-2変異株では地上部と地下部のいずれも表現型に変化は見られなかった。

HD2B遺伝子に依存するdrol1変異株の表現型の解析

元屋敷真也

シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシンの発現が過剰になっている変異株として単離された。その原因遺伝子であるDROL1はスプライシング因子をコードしており、変異株では末端の塩基配列がAT-ACであるイントロンのスプライシングが阻害されていた。その例外的なイントロンを持つ遺伝子の一つがHD2Bである。HD2Bはヒストン脱アセチル化酵素をコードしており、それがスプライシングされず機能を失ったことが、drol1変異株でオレオシンの発現を抑制できなくなった原因ではないかと考えた。そこで、HD2Bの3番目のイントロンの末端塩基配列を通常のGT-AGに変更した遺伝子(HD2BgmI)を作成し、これをdrol1-2変異株に導入したときオレオシンの発現が抑制されるか調べた。まず作成したHD2BgmIがHD2B遺伝子の機能を損なっていないことを調べるために、hd2b変異株に導入した。得られた形質転換体はColと違いがなく、導入したHD2BgmIはその機能に必要なDNAの領域を含んでいることがわかった。一方HD2BgmIを導入したdrol1-2変異株はColに戻らなかった。よってdrol1変異株の形態の異常はHD2B遺伝子の低発現によるものではないことが分かった。今後RNAを抽出し、オレオシンの発現が抑制されているかどうかを調べる必要がある。

シロイヌナズナdrol1変異株のサプレッサーの探索

山﨑史也

オレオシンが過剰発現してしまう変異株として単離されたシロイヌナズナのdrol1変異株は野生型株(Col)に比べて小さく、葉の形や本葉の発達が未熟といった表現型を示す。それらの表現型はいずれもDROL1遺伝子の相補実験により回復するため、何等かの遺伝子のスプライシング異常によるものと推測されている。その経路を解明するため、drol1変異株の表現型を抑制する別の変異(サプレッサー)を発見することを目的とした。drol1変異株の種子にEMS処理を行い、得られたM2の種子を播種したがサプレッサーを得ることができなかった。drol1変異株においてスプライシング異常が起こる遺伝子の中にNHX5、NHX6があり、これらはNa+を細胞外に排出する細胞膜のタンパク質をコードしている。NHX5、NHX6の二重変異株は高塩濃度に感受性を示すことが報告されておりNHX5、NHX6が発現しないdrol1変異株は塩ストレスに感受性を示すことが予測された。そこで、様々なNaCl濃度別の培地を作成しdrol1変異株と野生型株を生育させた。野生型株は高塩濃度下においてもある程度の生長をしたのに対し、drol1変異株はほとんど生長しなかった。このことからdrol1変異株は塩ストレスに対して感受性であることがわかった。