2018年度 卒論要旨
クンショウモの形質転換方法の開発
秋葉絵莉香
クンショウモは日本中の淡水に生息している微細藻類の仲間である。32または64個の細胞が集まって群体を形成し、増殖(細胞分裂)も非常に特徴的である。特徴的で見つけるのは容易であるが、その形態形成や増殖方法を含め分子生物学的、遺伝学的な研究はほとんどなされていない。本研究ではクンショウモの研究を発展させるために必要な形質転換方法の開発を目的とした。
クンショウモに有効な抗生物質を調べたところ、ハイグロマイシンが形質転換体の選抜に使えることが分かった。そこでクンショウモのMulti drug resistance associated protein 1 (MRAP1) 遺伝子のプロモーター下流にハイグロマイシン耐性遺伝子を置いた組み換え遺伝子を作成した。これをアグロバクテリウムに導入しクンショウモの形質転換を試みたが、形質転換体を得ることはできなかった。
HD2Cによるdrol1変異株への表現型の解析
緋田響
シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシンの発現が過剰になっている変異株として単離された。DROL1はスプライシング因子をコードしており、その変異株では末端の塩基配列がAT-ACであるイントロンのスプライシングが阻害されていた。その例外的なイントロンを持つ遺伝子の一つがHD2Cである。HD2Cはヒストン脱アセチル化酵素をコードしており、スプライシングされず機能を失ったことが、オレオシンの発現を抑制できなくなった原因ではないかと考えた。そこで、HD2Cの3番目のイントロンの末端塩基配列を通常のGT-AGに変更した遺伝子を作成し、drol1-2変異株に導入したときオレオシンの発現が抑制されるのではないかとの発想を得て、これを調べた。
まず実験のコントロールとしてHD2C遺伝子をクローニングし(HD2Cg)、これを野生型株、hd2c変異株、drol1-2変異株に導入した。hd2c変異株の形態は野生型株と違いがなく、それにHD2Cgを導入したものも変化はなかった。一方drol1-2変異株に導入したところその表現型が少し抑えられた。今後塩基配列を置換した遺伝子を変異株に導入し、その表現型を解析する。
DROL1によるHD2Cの制御機構の解明
上野 友熙
シロイヌナズナは種子の登熟過程で油脂を蓄積し、発芽の際にそれを利用して成長する。油脂はオイルボディの中に蓄積されており、その膜にはオレオシンが存在している。オレオシンの発現を指標とし、変異株をスクリーニングしたところ、発芽後もオレオシン遺伝子の発現が抑制されないdrol1変異株を同定した。DROL1はスプライシング因子をコードしており、変異株では末端の塩基配列がAT-ACとなっているまれなイントロンのスプライシングが抑制されていた。
AT-AC型イントロンを持つ遺伝子を探したところHD2B、HD2Cが見つかった。これらの遺伝子はヒストン脱アセチル化酵素をコードしており、ヒストンタンパク質のアセチル基外すことで遺伝子の発現を抑制すると考えられている。野生株ではHD2BとHD2Cによってオレオシン遺伝子の発現が抑制されているのではないかと考えた。
HD2CのAT-AC型イントロンは3つ目のエキソンと4つ目のエキソンの間に存在していた。そこでプロモーターから3つ目のエキソンを含む領域にGUSを繋いだHD2Cp3e::GUS株と、さらに3つ目のイントロンおよび4つ目のエキソンを含む領域にGUSを繋いだHD2Cp4e::GUS株を作成した。この二つの遺伝子それぞれをシロイヌナズナに導入し、GUS活性を染色によって調べた。その結果両者の株にほとんど違いがないことが分かった。
クンショウモの細胞分裂の顕微鏡観察
上見 肇哉
クンショウモは淡水に生息している緑藻の一種で複数の細胞が平面的に集まり一つの個体として活動しており、勲章のような形で特徴的なため容易に区別できる。複数の細胞が集まり集団となっているものを群体と呼び、クンショウモの細胞数は2の乗数であり、8個、16個、32個であることが多いため定数群体と呼ばれる。
本研究ではクンショウモの細胞分裂から娘群体の放出の過程を観察し、多様な植物細胞の分裂機構を研究することを目的とした。細胞分裂から娘群体の放出をタイムラプス撮影で観察した結果、細胞分裂を終えて娘群体の放出をする際に親の細胞膜と共に娘群体が放出されることが分かった。また、放出直後の娘群体には外側の細胞にツノがなくほぼ球状であり成長していく過程で外側にツノが形成され親の細胞膜も消失した。さらにその画像を解析したところ、クンショウモの一回の細胞分裂の時間は45から80分程度であり他の植物の細胞分裂よりも速いことが分かった。
シロイヌナズナのDROL1プロモーターの解析
王 義
シロイヌナズナは発芽後の生長に備えて種子に油脂を蓄積する。油脂はオイルボディ中に存在し、その表面にはオレオシンというタンパク質が存在している。オレオシンは種子の登熟中には盛んに合成されるが、発芽後は速やかに抑制される。そのオレオシンの発現を指標に変異株のスクリーニングが行われ、結果drol1変異株が単離された。その原因遺伝子DROL1の発現パターンを調べるために、DROL1のプロモーター領域をGUS遺伝子につないだ融合遺伝子を作成し、シロイヌナズナに導入した(DROL1p::GUS)。得られた6株の形質転換体から葉をとり、GUS染色を行った。その結果すべての株の葉脈でGUS活性が確認でき、維管束でDROL1が活発に発現していることが推測できた。また強い GUS活性を示した株では葉柄やトライコームにもGUS活性が確認できた。葉が大きいほうがGUS活性が強い傾向がみられたことから、葉の成熟にともないDROL1の発現量は増えるの
ではないかと考えた。
クンショウモの遺伝的多様性の解析
鬼頭 拓万
クンショウモ (Pediastrum属) は湖沼や池に住んでいる微細藻類でその特徴的な形態で容易に区別できる。4、8、16、32、64という2のn乗個の細胞が集まって群体を形成している。本研究では今後クンショウモを分子生物学的、遺伝学的な手法で解析していくための研究資源 (リソース) を得ることを目的とした。遺伝的に多様な株を得て、遺伝地図の作成につなげるために中部大学30号館の池からクンショウモを採取し、株化することを試みた。その結果、クンショウモ10株 (PK1-PK10) を得た。このうち5株のrRNAの一部の塩基配列をシークエンスした。得られた塩基配列をDDBJのデータベースと比較した結果、2株がPediastrum duplex、2株がPseudopediastrum bonyanum、1株がSorastrum spinulosumであることが分かった。
HD2Bの遺伝子発現におけるDROL1の役割の解析
杉田由季
植物の種子に含まれる脂質は植物油やバイオ燃料として使用されている。本研究では脂肪性種子をつけるシロイヌナズナを用いて、油脂合成の遺伝的な制御機構の解析を目指し、その因子の一つであるDROL1の解析を目的とした。シロイヌナズナのイントロンの塩基配列はGTで始まりAGで終わるものがほとんどだが、drol1変異株ではATで始まってACで終わるイントロンのスプライシングが著しく抑制されていることがわかった。イントロンをもつHD2Bはそうしたイントロンを持つ遺伝子の一つで、この遺伝子の発現にAT-AC型イントロンがどのように関与しているのかを調べた。HD2Bのプロモーターから3番目のエキソンまでをクローニングしGUS遺伝子の上流につないだもの(HD2Bp3e::GUS)と4番目のエキソンまでをつないだもの(HD2Bp4e::GUS)を作成し、そのGUS活性をシロイヌナズナの幼植物体を用いて調べた。実験の結果、いずれの株も似たGUS活性のパターンを示したので、DROL1は特定の部位にあるわけではないと推察された。一方でAT-AC型イントロンを含むHD2Bp4e::GUSのほうが全体としてGUS活性が強かった。このことから、AT-AC型イントロンには発現量を高める機能があるのではないかと推
測した。
DROL1タンパク質の細胞内局在の解析
田中 彬貴
植物を用いた油脂の生産効率を上げることを目指し、シロイヌナズナを用いた種子油脂貯蔵プログラムの遺伝学的な研究が行われた。その過程で発芽後も油脂の蓄積に必要なオレオシンの発現が継続する変異株drol1が単離された。DROL1遺伝子はスプライシング因子をコードしていたがその詳細な機能は不明であった。本研究ではDROL1タンパク質の細胞内局在を明らかにすることを目的とした。
35Sプロモーターの制御下で蛍光タンパク質と融合したDROL1を発現するような遺伝子を作成し、シロイヌナズナのCol株とdrol1-2変異株にアグロバクテリウムを介して導入した。得られた形質転換体の第二世代の発芽後一週間の植物を観察した。蛍光顕微鏡を用いた観察の結果、核と思われる部分にDROL1が局在していることを確認した。また、細胞質や、細胞壁もしくは細胞膜と思われる部分にも蛍光が見られたことから、DROL1は主に核に存在するが、タンパク質の翻訳やmRNAの輸送の過程で核外に輸送される可能性も考えられた。そして、形質転換したdrol1-2変異株の中で3個体が野生型株に近い表現型を示した。
蛍光タンパク質をDROL1のC末端側に融合したもののほうがN末端側よりも発現量が大きいものが多かったことから、DROL1はN末端側により重要なドメインがあると考えられた。そこでDROL1の翻訳開始点を決めることが重要であると考え、5’RACEを行い転写開始点を調べた。その結果従来開始コドンと考えていたATGの10bp上流に転写開始点が位置することが分かった。平均的なUTRの長さを考えると2番目のATGが翻訳開始点であることが分かった。
クンショウモの概日リズムの解析
柳澤 紫苑
クンショウモは微細藻類で、日本中の水田や池などの淡水に生息している。32または64という2の乗数個の細胞が集まって群体を形成しており、その形態は非常に特徴的である。しかし、その生態や細胞分裂の仕組みはほとんど解明されていない。本研究ではクンショウモの概日リズムを解明することを目的とした。クンショウモの細胞分裂は光の刺激によって起きると報告されている。光の受容から細胞分裂の制御にいたる過程を調べるため、細胞分裂と測定とRNAの解析からクンショウモの概日リズムの解明を試みた。
クンショウモをチューブで培養し、経時的にプレートに播きコロニー数を測定した結果、クンショウモの倍加時間は4日であることがわかった。しかし、本実験ではクンショウモが活発に増殖していないと考えられた。今後の課題として、最適な条件での倍加時間を測定するために、培養条件の検討が必要である。夜明け前から朝方にかけてのクンショウモの遺伝子発現を網羅的に調べるためにRNA-Seqを行った。クンショウモが光を受け、DNA複製を開始することで細胞周期が動き出す可能性が考えられた。
DROL1タンパク質の細胞内局在の解析
山田 広輝
種子植物は次世代の栄養として種子に様々な物質を蓄積しており、その成分のうちの油脂は食料としてだけでなく、化粧品、自動車や飛行機の燃料、バイオディーゼルの原料など、様々な用途に用いられている。本研究は油脂の生産性を向上させるために、シロイヌナズナを用いて種子成熟過程における油脂合成を制御するDROL1遺伝子の細胞内局在の解明を目的とした。これまでの研究から、発芽後のオレオシン遺伝子の抑制のためにDROL1遺伝子が必要であることがわかっているが、細胞内局在についてはわかっていない。そこで、DROL1遺伝子のC末端側に蛍光タンパク質を融合させて、Col株とdrol1-2 変異株に導入し蛍光顕微鏡観察をした。
観察の結果、DROL1に融合させた蛍光タンパク質はその蛍光を観察できなかった。DROL1-GFP/drol1-2 株の表現型が野生型株に近いことから導入した遺伝子が発現していることは確認できるが、その発現量は蛍光顕微鏡による観察には不十分であったと考えられた。DROL1はスプライシング因子をコードしていると予想され、スプライシングは核内で起こることから、核に局在するという予想は証明することができなかった。第二世代では導入遺伝子がホモとなるので発現量が増える可能性が期待できる。
クンショウモの接合手法の確立
山本 真由
クンショウモは緑色植物門緑藻網クロロコックム目のアミミドロ科に属し、淡水の池や沼地などに棲む緑藻の一種である。一般的に無性生殖を行って個体数を増やしているが、人工的に接合させることができれば遺伝学的な手法を用いた研究を進めることが可能となる。接合方法を確立するにあたってまずは、遺伝子が組変わった個体を検出する方法を開発することを目的とした。そのために親系統の染色体を区別できるSNPマーカーを作成することを目指しRAD-Seq法を用いた。RAD-Seq法はDNAを特定の制限酵素で切断し、そこにアダプターをつけて次世代型シーケンサーで塩基配列を決定する方法である。制限酵素に隣接する部位に限定することでシークエンス量を減らしつつ遺伝学的な解析に十分な量のSNPを見つけることができる。RAD-Seq法を研究室が保有する5株に適用したところ、新潟5株は中部大学産の株との間で多くのSNPを有していることが分かった。