2025年度 卒論要旨

新たなTTL変異株の解析

岩瀬 直央

ヒトの遺伝病である多彩異数性モザイク症候群の原因遺伝子としてCENATACが同定された。CENATACが欠損すると末端がAT–ACであるイントロンのスプライシングが特に抑制される。シロイヌナズナのTITAN LIKE (TTL)はCENATACのオルソログと考えられ、同様の機能をもっているか興味がもたれた。そこで、CRISPR-Cas9法を用いて変異を導入し、新たなTTLの変異株の作成を試みた。

その結果、ttl-215ttl-401の2つのアリルが得られた。ttl-215はC2H2ドメイン付近に5アミノ酸の欠失と2アミノ酸の置換を含むタンパク質をコードしており、ホモ接合体を取ることができた。地上部は野生株よりわずかに小さかった。一方ttl-401は1塩基挿入によりフレームシフトが発生し、ホモ接合体は得られなかった。シロイヌナズナにおいてTTLは必須の遺伝子であり、そのC2H2ドメインは不可欠であることがわかった。

AT–AC型イントロンのスプライシング活性の可視化

石川 瑞季

シロイヌナズナのdrol1変異株はオレオシン遺伝子の発芽後の発現抑制が起きない変異株として単離された。その原因遺伝子であるDROL1は末端がAT–ACであるイントロンのスプライシングに特異的に必要であることが明らかとなった。変異株は、発芽が遅い、根が短い、子葉が扁平などの表現型を示し、こうした表現型を指標にして7株のサプレッサーが単離された。見かけはいずれも野生株と区別できなかったが、AT–AC型イントロンのスプライシングの回復の程度は様々であり、drol1変異株の表現型はAT–AC型イントロンのスプライシングの欠損だけでは説明できないことが分かった。本研究では新しいdrol1変異株のサプレッサーを単離するため、AT–AC型イントロンのスプライシング自体を指標としたスクリーニングを考え、それを可視化する組換え遺伝子を作成した。作成した遺伝子は野生株においてルシフェラーゼを発現したが、drol1背景では発光がほとんどみられなかった。実際にdrol1変異株ではイントロンが残留していることが確かめられ、その発光の差はAT–ACイントロンのスプライシングを可視化していると考えた。

新しいdrol1サプレッサーの解析

牛田 大翔

シロイヌナズナが種子に油脂を貯蓄する遺伝的な制御機構の解明を目指した研究が行われた。油脂を蓄えているオイルボディの膜にあるオレオシンタンパク質の発現パターンを指標にして変異株のスクリーニングが行われ、drol1変異株が単離された。その原因遺伝子はスプライシング因子をコードしており、その後の研究でATではじまりACで終わるマイナーなイントロンのスプライシングに必要であることがわかった。DROL1の機能を明らかにするためにサプレッサーのスクリーニングが行われ、そのうちの一つ#49-4aについて解析を行った。次世代シーケンス解析により、#49-4aはRNA結合タンパク質をコードするFCA遺伝子に変異を有していることが同定された。このFCA変異がdrol1-1の表現型を回復させる原因であるかを検証するため、遺伝子型と表現型の連鎖解析を行った。その結果、FCA変異をホモ接合で持つ個体は例外なくすべて野生型の表現型を示し、drol1-1の表現型が完全に抑制されることが確認された。

ルシフェラーゼ発現を指標としたmRNAの核外輸送の変異株のスクリーニング

大西 真央

シロイヌナズナのdrol1変異株はスプライシング因子に変異があり、AT–AC型イントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることが明らかにされた。その後の研究で、イントロンを残したmRNAは核内にとどまり、翻訳されないことがわかった。こうした結果から、AT–AC型イントロンを残した未成熟なmRNAを核内にとどめておく機構の存在が考えられ、そのしくみを明らかにする研究が計画された。本研究では、イントロンを残したmRNAが核外に輸送され、翻訳されるような変異株をスクリーニングすることを目的としたレポーター遺伝子の作成を行った。具体的には、AT–ACイントロンに変異を入れ、イントロンが残ったときに下流のルシフェラーゼが発現するようなレポーター遺伝子を二つ作成し、シロイヌナズナの野生株に導入した。変異をいれる前の遺伝子はルシフェラーゼを発現したが、変異をいれたものは発現しなかった。今後これらのレポーター遺伝子をdrol1変異株に導入することで、イントロンが残っている変異株をスクリーニングすることができると期待される。

SERF1とSERF2の細胞内局在の解析

奥田 夏未

シロイヌナズナのゲノムには70個ほどのAT–AC型イントロンを持つ遺伝子があり、その中にSERF1とSERF2がある。この遺伝子は広く真核生物に存在しているが、その機能はほとんどわかっていない。SERFは電荷をもつアミノ酸を多く含む、小さなタンパク質をコードしている。

本研究ではSERF1とSERF2の細胞内局在を調べるために、GFPを融合した遺伝子を作成し、シロイヌナズナ野生株に導入した。その結果、SERF1は細胞全体に存在し、特に核と核小体に多く存在することがわかった。また、SERF2はほとんど発現しなかった。このことと、SERF1の破壊株が致死になることを合わせると、SERF1が唯一の機能をもった遺伝子であると考えられた。

SERF1のプロモーター解析

奥村柚希

真核生物のイントロンはほぼ全て5’端がGTで、3’端がAGとなっている。しかしごくわずかにATで始まり、ACで終わるマイナーなイントロン(以下AT–ACイントロン)が存在する。シロイヌナズナの遺伝子の一つのSERFはこのAT–ACイントロンを持っている。SERFは小さなタンパク質をコードし、その配列の中には極性をもつアミノ酸が多く含まれている。このSERFは真核生物に広く存在しているが、その機能はほとんどわかっていない。そこで、SERFが植物の成長段階のいつ、どこで発現しているのかを調べることにした。SERF1のプロモーターにGUSレポーター遺伝子をつなげ、シロイヌナズナの野生株に導入した。GUS染色をしたところ、葉の葉脈や根が染まった。しかし、根の先端や大きく成長した葉は染まらなかった。また、胚珠と花粉も染まった。これより、SERF1はそれぞれの組織の成長段階の途中で必要とされているのではないかと考えた。

drol1サプレッサーとTTLの遺伝的相互作用の解析

金山 亜裕菜

シロイヌナズナのdrol1変異株はスプライシング因子に変異があり、末端がATで始まりACで終わるイントロンのスプライシングが抑制されている。これまでにdrol1変異株のサプレッサーとしてSUDL1からSUDL4までの4遺伝子座が同定され、いずれもスプライソソームのU5 snRNPのタンパク質サブユニットをコードする遺伝子に変異を持っていることが明らかとなった。ヒトにおいてCENATACが欠損するとdrol1と同様にAT–ACのイントロンのスプライシングが抑制されることが報告された。シロイヌナズナのTTLはヒトのCENATACのオルソログであり、その変異株であるttl-142ではAT–ACイントロンのスプライシングが抑制されていることが明らかとなった。

本研究では、drol1のサプレッサーであるsudl3-3sudl4-2ttl-142にもサプレッサーとして機能するかを調べるために、二重変異株を作成した。sudl3-3ttl-142二重変異株は得られなかったので、SUDL3の変異はttl-142の表現型を強めて、致死になった可能性が考えられた。一方、sudl4-2ttl-142の表現型を抑圧する可能性が示された。

drol1サプレッサーsudl2によるAT–AC型スプライシングの回復過程の解析

佐藤 杏香

シロイヌナズナのdrol1変異株では、末端の塩基配列がAT–ACであるイントロンのスプライシングが特異的に抑制されることが知られている。当研究室で単離されたdrol1のサプレッサーであるsudl2変異は、drol1の表現型を完全に回復するが、AT–AC型スプライシングの回復は部分的であった。この回復がどのようなしくみで起きているのかを調べるために、AT–AC 型および GT–AG 型の両方でスプライシングが可能な人工レポーター遺伝子を交配で導入した。得られたF3世代からRNAを抽出し、スプライシングパターンを解析した。その結果、野生型ではこれまでの知見と一致するスプライシングパターンが認められた。一方drol1-1/sudl2-2の二重変異株では、AT–AC 型スプライシングが検出されない個体と、野生型と同程度に起こる個体の両方が見られた。sudl2-2は AT–AC 型スプライシングを常に回復させるわけではないが、条件によっては回復に関与する可能性が示唆された。

drol1サプレッサーsudl3によるAT–AC型スプライシングの回復過程の解析

曽我 美津希

シロイヌナズナのdrol1 変異株では 末端の塩基配列がAT–ACであるイントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることが報告されている。当研究室で単離されたdrol1のサプレッサーであるsudl3はPRP8遺伝子に変異があり、drol1の表現型を完全に回復する。また、ds3-1ds3-3においてAT–AC型イントロンのスプライシングは部分的に回復しており、どのようにしてDROL1の機能が補われているのかが疑問にもたれている。そこで、AT–AC型、GT–AG型の両方でスプライシング可能な人工遺伝子をds3-1およびds3-3変異株に導入し、そのスプライシングパターンを調べた。野生型株とsudl3-3の単独変異株では、AT–AC型スプライシングが高い割合で起きていた。一方、drol1-1/sudl3-3の二重変異株ではAT–AC型スプライシングは起きず、GT–AG型がほとんどであったこのことから、ds3-3で起こるAT–AC型イントロンのスプライシングは、本来GT–AG型イントロンを好むスプライソソームによるものである可能性が考えられた。

sudl4変異によるAT–AC 型スプライシングの回復過程の解析

時田桃花

シロイヌナズナdrol1変異株では、末端の塩基配列がAT–ACであるイントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることが報告されている。本研究では、drol1変異体のサプレッサーの一つであるSUDL4が、AT–AC型イントロンのスプライシングの回復にどのように関与しているかを調べるために、AT–AC型およびGT–AG型の両方のスプライシングを受ける人工レポーター遺伝子m13を用いた。m13とdrol1/sudl4二重変異体を交配し、F3からRNAを抽出し、スプライシングパターンを次世代シーケンサーで解析した。

その結果、野生型では主にAT–AC型のスプライシングが観察され、一部でGT–AG型スプライシングも認められた。sudl4-1 単独変異株では個体間でスプライシングパターンに差が見られた。今後、drol1-1/sudl4-1 二重変異体でどのようなスプライシングが起きているかを調べる必要がある。

drol1変異株の核スペックルの観察

藤田 歩

シロイヌナズナのdrol1変異株はスプライシング因子に変異があり、末端がATで始まりACで終わるイントロンのスプライシングが特異的に抑制されている。そのイントロンを残したmRNAが核内にとどまっていることが報告されている。こうしたイントロンの残留が核スペックルの膨張をもたらし、drol1変異株の表現型の原因となっている可能性が示唆されている。そこで本研究では核スペックルに局在するとされているUBA2aにGFPを融合させたタンパク質を用いて、核スペックルの可視化を試みた。形質転換体をつくり、UBA2a-GFPの蛍光を観察したところ、主に核に局在することがわかった。また、核小体にはUBA2a-GFPは見られなかった。ABAを添加したがUBA2a-GFPは核スペックルに局在しなかった。

種子で発現するオレオシンを利用したdrol1サプレッサーのスクリーニング

本田 康悦

シロイヌナズナのゲノムには、約12万5,000個のイントロンが存在し、そのうちたった70個ほどだけがATで始まりACで終わる特殊なイントロンであることが知られている。シロイヌナズナのdrol1変異株は、このAT–AC型イントロンのスプライシングが特異的に抑制されており、様々な表現型を示す。これまでにdrol1の表現型を抑圧するサプレッサー変異株が単離されているものの、AT–AC型イントロンのスプライシングは完全には回復していなかった。

本研究では、AT–AC型イントロンのスプライシングを回復させる新しいタイプのサプレッサーをスクリーニングするため、レポーター遺伝子を作成した。種子で発現するオレオシンの遺伝子の下流にAT–AC型イントロンを介してGFPを連結し、スプライシングが起きた場合にGFPが発現するレポーター遺伝子を構築した。本遺伝子を導入した結果、野生株ではAT–AC型イントロンがスプライシングされたmRNAが産生され、GFP蛍光が観察された。一方、drol1変異株ではAT–AC型イントロンを残留したmRNAが主に産生され、GFPは発現しないことが確認された。

よって、新しいレポーター遺伝子はAT–AC型イントロンのスプライシングの有無を蛍光強度として視覚的に評価できることが示された。

ttl-142のサプレッサーのスクリーニング

山田 佳穂

シロイヌナズナの drol1 変異株は、発芽後に抑制されるべきオレオシン遺伝子の発現異常を示す変異株として単離された。さらに末端がAT–ACとなっているイントロンのスプライシングが特異的に抑制されていることから、DROL1はAT–AC型イントロンのスプライシングに必要な因子であることが示された。また、ヒトのCENATACもU12型イントロンのうち特にAT–AC型イントロンのスプライシングに関与することから、そのシロイヌナズナにおけるオルソログであるTTLの機能解析がなされた。CRISPR-Cas9法により作出された ttl-142 変異株は、子葉の扁平化や生育遅延など drol1 に類似した表現型を示し、RNA-Seq解析からAT–AC型イントロンのスプライシング抑制が確認された。

本研究では、TTLの機能解明を目的として ttl-142 変異株のサプレッサーの単離を試みた。ttl-142 種子にEMS処理を施し、M2世代約3700粒をスクリーニングした結果、野生型に近い表現型を示す13株のサプレッサー候補を得た。